4月より順次アメリカのトランプ大統領により、アメリカ国外からの輸入品に対して大幅な関税(通称・トランプ関税)をかけることを決定しました。
この専横的な行動に世界各国は猛反発、特に中国は「報復関税」を発動するに至り、世界経済は混乱、世界の株価は大幅下落するに至りました。
世界情勢を受けてか分かりませんが、9日発動のトランプ関税の本格発動は即日見送られ、「90日の猶予停止」となっています。
なぜ、トランプ大統領は大幅な関税をかけるに至ったのか、そもそも「関税」とは何なのかについて解説します。
そもそも「関税」とは?
まずは「関税」というものから説明します。
皆さんは物を購入するときにほぼ何でも「消費税」というものが付いてくるのは承知のはずです。
これは日本国内の物品、サービスなどにかかる税金です。
現在では10%を基本とし、一部は8%(軽減税率。テイクアウトの飲食物やスーパーの食料品など)が適用されています。
対して、「関税」というものは「日本国外から日本国内に輸入される『輸入物』に対してかかる税金」です。
(例外として国外へ輸出する「輸出物」に対してもかかる例もありますがここでは説明を割愛)
つまり、日本国外で生産され、日本に輸入されて販売されるものにはあらかじめ「関税」がかけられていると思ってください。
なぜ「関税」をかける必要がある?
日本だけに限ったことではなく、世界中の多くの国々は自主的に「関税」をかけています。
ではなぜ「関税」をかけるのでしょうか?
理由は大きく分けて2つあります。
税収を確保するため
1つは、関税により国内の税収を確保する目的です。
関税を支払うのは「その輸入物を仕入れる輸入者」にかけられます。
当然、輸入物は全て空港ないしは港湾で1つ残らずチェックされ、例外なく輸入者と物品が分かります。
先進国では自給率が高いものであれば輸入品が入る余地が少ないですが、発展途上国では産業が未発達のため、自然と輸入物に頼らざるを得ません。
そのため、関税をかけて税収、財源を確保する目的で導入しています。
日本は先進国のため、税収に占める関税の税収は低いです(近年では2%未満とされています)。
国内産業を守るため
重要なのはこちらです。
もし、「同じものが同じ品質でありながら、価格が1/100の品物」があったら消費者はどうするでしょうか?
当然ですが、皆さんは安いものに飛びつくでしょう。
わざわざ同じものを高い価格で買う必要性が全くないのですから。
具体例をあげれば、PS5やSwitchといったゲームハードが別の会社から全く同じ品質で1000円とかで売っていたら誰もSONYや任天堂から買わないでしょう。
食品でもチョコレート1パック600円のものが別メーカーでは10円ならどうでしょうか。
同じことですよね。
それと同じで、安い海外製品が大量に税金をかけないまま入ってくると、日本の産業が破壊されます。
消費者はいつだって同じものであれば安いものを買いますので。
その最たる例が「米」です。
米は日本の農業の主製品で、日本のコメ産業を守るために関税をかけられています。
日本はコメに700%の関税をかけている
と発言しましたが、実態は財務省の実行関税率表に記載されている米の関税は、「1kg当たり341円」という数値が出ています。
(5kgなら1700円程度の関税)
かつては「日本のコメ輸入には自国産業を守るため778%もの非常に高い関税がかかっている」と言われていましたが、それは実態とは乖離したものです。
それでも米は比較的高めの関税をかけられている方ですが。
関税率の一覧はこちらの政府公式サイトからいつでも見れます。
かつて日本には「自主的に関税をかける権利」がなかった
小中学生の誰もが習った日本史ですが、日本はかつて「関税を自国で決める権利がなかった」ことがあります。
「関税自主権がない」という言葉を聞いたことがある人は多いはずです。
「治外法権を認める」、「関税自主権がない」とセットで覚えたことでしょう。
時は江戸時代、当時のアメリカからの黒船来航により開国を迫られ、圧力により鎖国は終わりました。
同時に「安政条約」と呼ばれるものが各国と結ばれました。
オランダとは日蘭修好通商条約
ロシアとは日露修好通商条約
イギリスとは日英修好通商条約
フランスとは日仏修好通商条約
といった感じです(いずれも当時世界で大きな権力を持っていた国々)。
これらすべてに言えるのは「日本が圧倒的不利な立場である不平等条約」であったことです。
「治外法権を認める」は「国内で罪を犯した外国人を国内の法律で裁けない=その国の法律で裁くことを認める」ものです。
(ここでは割愛しますが、治外法権(正確には領事裁判権)に関して誤解されている人は多いです)
そして本題の「関税自主権がない」ですが、「全くの無関税」ではありません。
「あらかじめ相手方が提示した関税で輸入を認める(こちらから決める権利や変更権は持たない)」というものでした。
一時、一部には日本側が有利なものではあったものの、経済状況に応じて変える権利を持たないため、インフレを起こした時にはほぼ無関税のまま輸入品が入り込むようになりました。
「このままでは日本の産業が破滅する」と考えた時の明治政府は「小村寿太郎」たちの手腕により、この関税自主権がない不平等状態を解消するに至りました。
(余談ですが、治外法権の不平等条約は時の外務大臣・陸奥宗光の手によりイギリスから撤廃、続いて他の4ヶ国も順次撤廃になりました)
トランプ大統領の狙い
「関税」をかけるのは「自国の産業を守る」のが最大の目的であることは上で説明したとおりです。
ここまで大幅な関税をかけると、海外輸入品は当然「高価」になります。
関税は輸入者にかかるのも上に書いた通りで、価格に上乗せさせないと利益が減るのは当たり前です。
少し程度ならともかく、20%や30%も上げられると、単純にそのまま値上げすれば消費者は高すぎて買わなくなってしまいます。
これが「トランプ大統領の狙い」です。
つまり、「輸入品は高いよ。でもアメリカ国内生産品なら安いよ。だからアメリカ生産品を買ってね」と言いたいのです。
これによりアメリカ産業が活発化(生産拠点もすべてアメリカ)となれば、法人税なども潤い、自国産業で国内活性化としたかったのです。
しかし、そう簡単には行きません。
今まで海外の安いところで作っていたものを、急にアメリカに生産拠点を移すなんてことはできません。
個人の家の引っ越しですら「じゃあ明日から出て行ってね」と言われたら困るでしょうし、工場なんて大規模なものなら尚更です。
加えてアメリカ大統領は2期8年が上限です(独裁防止のため憲法で規定)。
たった4年の任期(既にトランプ大統領はバイデン前大統領の前に4年務めている)のため、工場を移転集約させるのはとても無理な話です。
工場を建て直す間にトランプ大統領が任期満了で辞めてしまう可能性が高いです。
それ故に、「4年のために工場を移すか、それとも様子見か。その間にも大幅な関税のせいで価格が決められない」と世界中の企業は思い、急な大幅関税引き上げで世界経済は混乱し、世界同時株安となったのです。
まとめ
まだまだトランプ大統領の政策は始まったばかりで、株安も止まらないでしょう。
トランプ大統領の性格から考えるに、一度決めたことはまず反故にしません。
だからこそ強行的に関税引き上げを決めて発動したと思います。
アメリカファーストの姿勢を貫くので、まだまだ政策を打ち出してくるはずです。
特に中国の台頭を阻止するためならなんだってやりそうです。
これからの経済に注目です。