よくネット上で「紙幣を燃やすと罪に問われる」と書かれているのを見かけます。
しかし、これはよくある勘違いです。
貨幣に関する法律はいくつかありますが、よく勘違いされている「貨幣損傷等取締法」です。
今回はこの法律を説明します。
そもそも「貨幣」とは?
そもそも「貨幣とは何か」から説明する必要があります。
貨幣とは、経済で使われる通貨のことであり、「紙で作られた紙幣」と「金属類で作られた硬貨」の2つから成り立ちます。
硬貨と紙幣、2つを合わせて「貨幣」と呼びます。
日本の場合、現行では以下の貨幣が流通しています。
【紙幣】
10000円
5000円
1000円
以上3種類
【硬貨】
500円
100円
50円
10円
5円
1円
以上6種類
【余談】
昔は、100円札や10円札もありました。
古い貨幣は自販機などでは使えない(機械が認識できないため、自動で戻ってくる)ですが、旧式の貨幣であっても「日本政府が発行した貨幣」であることに変わりはないため、額面通りの価値で使用可能です。
実際自分もアルバイトをしている時に100円札などを出してくる客は何人も会いました。
ちなみに、古銭類はボロボロなら額面通りの価値がないことがほとんどですが、状態が良いものなら数万円、貴重な兌換紙幣(だかんしへい)なら数千万円することもあります(まあそんなものを持っている人はほとんどいませんが、古銭展で実物を見たことがあります)。
「貨幣損傷等取締法」とは?
さて、本題になりますが、「貨幣を損傷させたりすると罪に問われる」というのは「貨幣損傷等取締法」に定められています。
この法律は以下のように定められています(出典)。
昭和二十二年法律第百四十八号
貨幣損傷等取締法①貨幣は、これを損傷し又は鋳つぶしてはならない。
②貨幣は、これを損傷し又は鋳つぶす目的で集めてはならない。
③第一項又は前項の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
附 則
①この法律は、公布の日から、これを施行する。
②昭和十五年大蔵省令第四十号(補助貨幣のしゆう集、鋳つぶし又は損傷の取締に関する省令)は、これを廃止する。
さて、問題なのはここで指示されている「貨幣の種類」です。
この法律で定められている「貨幣」とは、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に定める貨幣のことを示しています。
それは、同法5条1項に定める「五百円、百円、五十円、十円、五円及び一円の六種類」の貨幣になります。
つまり、「紙幣は対象外で、硬貨のみ」となります(余談ですが、造幣局が発行する記念硬貨も指定しているので、この法律の「硬貨」に当てはまります。指定額面だけで判断してはいけません)
そのため、「紙幣を燃やせば罪に問われる?」に対して以下のような回答は誤りです。
なぜ紙幣を燃やしても罪に問われない?
ではなぜ、紙幣を燃やしても罪に問われないのでしょうか。
推測ですが2つの理由があります。
製造コストが安い
紙幣は硬貨と比べて製造コストが安いです。
印刷機や原版といった準備が整えば、1枚当たり「約20円」で作れます。
言ってしまえば、紙にインクで印刷したものにすぎませんからね。
対して、硬貨は銅やニッケル、アルミニウムなど金属で作られます。
特に近年は銅の価値が上昇していて、エアコンの室外機や電線が盗難にあうくらいです。
硬貨自体が貴金属なので紙幣より価値が高いため、「貨幣損傷等取締法」で処罰対象とされているのでしょう。
わざわざ高額紙幣を燃やす理由がない
紙幣は上記の通り、1000円、5000円、10000円の3種類が現行紙幣として発行されています。
仮に、10000円札を燃やすとしても何の利益があるのでしょうか。
酔っぱらった勢いとかでやらかすならともかく、まともな思考状態で10000円札を燃やす理由がないですよね。
また燃やされた側も極論はただの紙なのでまた印刷すれば済む話です。
なので、硬貨と比べて燃やす意味がない(額面価値が高いため)、燃やされても安易に再発行できることから取り締まり対象にならないと思われます。
結論、まとめ
つまりは、紙幣はいくら燃やそうが警察に罪を問われないですし、罰則も定められていません。
極端な話、警察の目の前で10000円札を燃やしても咎められることはありません(火をつけた紙幣を建造物等に投げ込めば放火の罪に問われるなどの可能性はありますが)。
よく歴史資料集で見かける「お札を燃やして明かりを取る成金おじさん(第1次世界大戦の軍需バブルで儲けた人)」は犯罪者ではないのです。
(当時1910年代中期の大正時代の100円札は現在の価値にして「約30万円」)
ただし、紙幣を発行する国立印刷局や銀行は「紙幣は大切に扱いましょう」と言っているので、罪に問われないからと言って故意に破ったり燃やしたりすることはやめましょう。
ちなみに、過失で破けた紙幣や燃えてしまった紙幣は銀行に行けばしかるべき対応をしてくれます。
さすがに、ひとかけらだけで全額交換とはいきませんが、2/3以上残っていれば全額額面通りの紙幣と交換できます。